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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2291号 判決

控訴人(原告) 岩井省三

被控訴人(被告) 国・神奈川県知事 外二名

原審 横浜地方昭和三二年(行)第七号

主文

(一)  原判決を左のとおり変更する。

(1)  被控訴人神奈川県知事が昭和二十四年三月三十一日神奈川県公報号外をもつて公告した別紙目録記載の土地につきなした買収処分中、同目録一の土地に関する部分は無効であることを確認する。

(2)  被控訴人神奈川県知事が昭和三十二年三月二十三日付神ろ第二、五五一号買収令書を昭和三十二年三月二十四日交付して別紙目録記載の土地につきなした買収処分中、同目録一の土地に関する部分を取り消す。

(3)  被控訴人国は、控訴人に対し別紙目録記載の一の土地につき横浜地方法務局上溝出張所昭和二十四年十二月二十六日受付第一、二二六号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第二七丁)により農林省のため所有権取得登記ありたるものとみなされた登記の抹消登記手続をせよ。

(4)  被控訴人若林は、控訴人に対し別紙目録記載の一の土地につき横浜地方法務局上溝出張所昭和二十五年二月十八日受付第一四八号の昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法第十六条の規定による売渡による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(5)  被控訴人森住は、控訴人に対し別紙目録記載の一の土地を明け渡せ」。

(6)  控訴人のその余の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人神奈川県知事が昭和二十四年三月三十一日神奈川県公報号外を以て公告して別紙目録記載の土地につきなした買収処分は無効であることを確認する。(三)被控訴人神奈川県知事が昭和三十二年三月二十三日付神ろ第二、五五一号買収令書を同年三月二十四日交付してなした別紙目録記載の土地に対する買収処分は無効であることを確認する。(四)被控訴人国は控訴人に対し別紙目録記載の土地一および二につき横浜地方法務局上溝出張所昭和二十四年十二月二十六日受付第一、二二六号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第二七丁)、同目録記載の土地三につき同出張所昭和二十五年五月八日受付第一、五二四号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第一三三丁)により農林省のため所有権取得登記ありたるものとみなされた登記の抹消登記手続をせよ。(五)被控訴人若林は控訴人に対し別紙目録記載の土地一および二につき横浜地方法務局上溝出張所昭和二十五年二月十八日受付第一四八号、同三の土地につき同出張所同年五月九日受付第一、五四五号の昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法第十六条の規定による売渡による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。(六)被控訴人森住は控訴人に対し別紙目録記載の土地を明け渡せ。(七)訴訟費用は第一、二審共被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、予備的請求として、「右(三)の請求が容れられないときは、同記載の買収処分を取り消す。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および立証は、

控訴代理人において、「被控訴人神奈川県知事が、本件土地につき昭和二十四年三月三十一日、買収令書の交付に代え公告による買収をした当時においては、控訴人の旧住所(登記簿上の住所)である東京都世田谷区深沢町一丁目二十八番地に宛てた郵便物は、すべて控訴人の当時の現住所であつた同区東玉川百五十六番地に転送されていたものであり、当時、控訴人に対し買収令書を交付することができなかつたというのは根拠がない。しかも神奈川県知事は、一度も、控訴人に対し令書の交付を試みることなく、いきなり交付不能として公告したものであるから、右公告による買収処分は当然無効である。」と述べ、

被控訴人ら代理人において、それぞれ「右控訴代理人の主張事実中、被控訴人らの従前の主張に反する点は否認する。」と述べた。

(証拠省略)

理由

(一)  別紙目録記載の三筆の土地(以下本件土地と称する)が、もと控訴人の所有であつたこと、本件土地につきき、神奈川県相模原町新磯地区農地委員会が昭和二十二年五月二十三日、自作農創設特別措置法第三条第一項第一号の規定に基き、いわゆる不在地主の小作地として買収の時期を同年七月二日とする買収計画を樹立したことは、当事者間に争がなく、被控訴人国、同神奈川県知事の関係においては成立に争がなく、その余の被控訴人らの関係においては、原審における証人大塚光治の証言により真正に成立したと認める甲第七号証の二並びに右証人および原審における証人石川豊二の各証言を綜合すれば、前記地区農地委員会は同年六月十日に右買収計画の公告をしたことが認められる。原審における証人石川明の証言(第二回)中、右認定に抵触する部分は採用し難く、甲第九、乙第三号証も、前記各証拠および原審における証人高橋幸次の証言と対照すれば未だ右認定を左右するに足りない。

しかして、前記買収計画に基き、被控訴人神奈川県知事が昭和二十四年三月三十一日附神奈川県公報号外により本件土地につき、被控訴人に対する買収令書の交付に代え、公告をして買収処分をしたこと(以下、右公告による買収を第一回の買収と称する)、次いで昭和三十二年三月二十四日被控訴人神奈川県知事は、本件土地につき、さらに控訴人に対し、控訴代理人主張の如き買収令書を交付して買収処分をしたこと(以下、右令書の交付による買収を第二回の買収と称する)は、当事者間に争がない。

(二)  第一回の買収の無効確認を求める請求に対する判断。

成立に争のない甲第一、二、三号証、被控訴人国、同神奈川県知事の関係においては成立に争がなく、その余の被控訴人らの関係においては当審における証人岩井喜久の証言により真正に成立したと認める甲第四号証、原審における証人大塚光治の証言により真正に成立したと認める甲第七、同第十号証の各一、二(右甲第七、同第十号証の各一、二は、被控訴人国、同神奈川県知事の関係においては甲第七号証の一の表面訂正部分を除き成立に争がなく、被控訴人若林、同森住の関係においては甲第十号証の一中、郵便官署の作成部分については成立に争がない)並びに前記証人岩井喜久の証言を綜合すれば、控訴人は、もと、本件土地の登記簿上の住所である東京都世田谷区深沢町一丁目二十八番地に居住していたが、昭和二十三年九月二十三日に同区東玉川町百五十六番地に転居し、翌昭和二十四年九月二十五日まで同所に居住していたこと、控訴人は右転居の際、郵便局にその届出をしておいたので、第一回の買収のなされた昭和二十四年三月三十一日当時においては、控訴人の前記登記簿上の住所を宛てた郵便物は転居先に転送され、すべて控訴人に到達していたこと、本件土地につき神奈川県農地委員会が所轄の前記新磯地区農地委員会を経由して控訴人に送付した同年二月二十一日附郵便物(甲第七号証の一、但し同郵便の宛先は、一旦控訴人の旧住所を記載の上、新住所に訂正している)および右新磯地区農地委員会から控訴人に宛てた同年四月二十六日附郵便物(甲第十号証の一)には、いずれも控訴人の肩書として、その転居先たる前記東玉川町百五十六番地の住所を記載しており、当時控訴人はは同所においてこれを受領していることが明らかであり、しかも被控訴人神奈川県知事が、本件第一回の買収に先だち控訴人に対して令書の交付を試みたことを認めるに足る証拠はない。以上の事実関係の下においてはは、成立に争のない乙第一号証その他被控訴人らの提出援用にかかる全証拠を参酌してみても、当時控訴人に対し令書を交付することができなかつたたものといえないことは明白である。したがつて第一回の買収は、令書の交付に代わる公告が許されない場合であるに拘らず公告をなしたものというの外なく、右公告は無効であつて、買収の効果を生じないものと解するを相当とする。(最高裁昭和二十八年十二月十八日言渡判決、民集七巻一五〇六頁参照)。

尤も本件土地のうち、二および三については、後記説示のとおり、その後適法に第二回の買収がなされ、控訴人はその所有権を失つたものであるから、これらの土地については、控訴人が第一回の買収につき、その無効確認を求める法律上の利益はなく、したがつて第一回の買収の無効確認を求める控訴人の本訴請求中、二および三の土地に関する部分は認容するに要なきものである。しかし一の土地については、後記説示のとおり、第二回の買収は取り消されるべきもので、控訴人はその所有権を回復するのであるから同土地については、控訴人において第一回の買収処分の無効確認を求める利益があるといわねばならない。したがつて第一回の買収の無効確認を求める本訴請求は、一の土地に関する部分にかぎり認容すべきものである。

(三)  第二回の買収につき無効確認および取消を求める請求に対する判断。

(1)  控訴代理人は、本件土地は元来、山林であり、買収計画樹立の当時は、僅かにその一部分が開墾されていたにすぎず、しかも右土地は被控訴人若林が権原なく不法に開墾耕作したものであるから、農地買収の対象となり得ないものである旨主張するので按ずるに、成立に争のない甲第一、二、三号証、原審および当審における証人石川明の証言(原審は第二回)により真正に成立したと認める甲第八号証、成立に争のない丙第一号証の一、二、原審および当審における証人石川豊二、同大塚光治、同岩井喜久(原審は第一、二回)、原審における証人高橋幸次、当審における証人藤曲兼吉、同大木平作の各証言(但し甲第八号証の記載内容および右各証人の証言中、後記措信しない部分を除く)並びに当審における検証の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、控訴人は、昭和十九年五月中、当時山林であつた本件土地を、将来自己の住宅用地とする目的で買い受けその所有権を取得したこと、その後昭和二十一年三、四月頃、本件土地を管理していた控訴人の母岩井喜久は、同地上の立木を他に売却したが、本件土地の近くに居住する被控訴人若林から本件土地を開墾して耕作したい旨の申込を受け、同年六月頃控訴人を代理してこれを承諾し、被控訴人若林に対し、期間を定めず、耕作のため本件土地を無償で使用することを許諾したこと、その結果、被控訴人若林は先ず本件土地のうち、二および三の部分から開墾を初め、同年十一月頃には開墾ずみの約八畝の部分に麦の作付をし、昭和二十二年五月には、二および三の土地中、残余の部分の開墾を終り陸稲を蒔き、結局、本件買収計画の樹立された当時および買収計画の公告された当時においては、二および三の土地は被控訴人若林が全部開墾し、小作人としてそれを耕作していたこと、しかし一の土地は、当時、大部分が未開墾の状態であり、その開墾を終つたのは、当時から約二年余の後であること、しかるに前記地区農地委員会においては、買収の期日である同年七月三日頃までには、一の土地も開墾される見込のもとに、本件土地を全部農地として、その買収計画を樹立したこと、以上の事実を認めることができ、前記甲第八号証の記載内容、当審における証人石川明の証言により真正に成立したと認める甲第十一号証、成立に争のない甲第十三号証の一、二、三の各記載内容、原審および当審における証人石川豊二、同大塚光治、同大久保新助、同石川明(原告は第一、二、三回)、同岩井喜久(原審は第一、二回)、同藤曲兼吉、原審における証人高橋幸次、同若林はま、当審における証人大木平作、同田中孫治郎、同加藤幸作、同芳沢重次、同古木僖治の各証言、並びに原審における被告若林、当審における被控訴人若林各本人尋問の結果中、前段認定に牴触する部分は、前記各証拠と対比し措信し難く、その他の証拠によつては、右認定を左右するに足りない。

しからば、本件土地のうち、二および三は、本件買収計画の樹立および買収計画の公告当時、いずれも小作地として買収し得べき状態にあつたものと認むべきであるから、それらの土地が、農地または小作地でなかつたことを理由として本件第二回の買収の努力を争う控訴代理人の主張は採ることを得ない。(尤も二および三の土地の使用貸借については、後記一の土地につき認定するが如く、その後控訴人において解除の意思表示をしたことが認められるけれども、一旦、適法に買収計画が樹立公告された後は、その後使用貸借の解除の意思表示によつて買収の効力に影響を及ほし得ないものというべきである。)

しかしながら、一の土地については、当時その大部分が未開墾の状態にあつた以上、これを農地と認めてなした買収計画は違法であり、これを基礎とする本件第二回の買収も違法といわざるを得ない。(尤も一の土地についても、その後開墾を終了したことは前記認定のとおりであるが、成立に争のない甲第五号証の一、被控訴人国、同神奈川県知事の関係においては成立に争がなく、被控訴人若林、同森住の関係においては、当審における証人石川明の証言により真正に成立したと認める甲第六号証、当審における証人岩井喜久の証言(但し前記措信しない部分を除く)、および弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人の母岩井喜久は、昭和二十二年八月頃、控訴人を代理して、被控訴人若林に対し、口頭で、開墾の中止と土地の返還を申し入れ、さらに同年十一月、控訴人から内容証明郵便をもつて、被控訴人若林の立退を要求し、爾来、その要求を続けていたことが認められ、原審における被告若林、当審における被控訴人若林各本人尋問の結果中、右認定に牴触する部分は措信し難い。一方原審における証人石川明の証言(第一回、但し前記措信しない部分を除く)によれば、本件土地の開墾は、二ケ月位で完了し得るものであることが認められるから、以上の事実関係の下においては、一の土地は、開墾の完了前に使用貸借が解除され、逆に買収の要件を具備するに至らなかつたもので、同土地に対する第二回の買収は、到底これを適法とすることはできない。しかして、この点の違法は、第二回の買収の全部または一部の当然無効の事由になるものとはいい難いが、一の土地に対する第二回の買収の取消事由にはなるものと解するを相当とする。(なお、右取消を求める控訴人の本件訴訟が法定期間内に提起されていることは、記録上明白である。)

(2)  次に控訴代理人は、(イ)農地の買収は令書の交付によつて効果を生ずるから、買収の時期は令書の交付より後の日を定めるべきであり、本件の如く買収の時期を昭和二十二年七月二日と定めた令書を、約十年後に交付するのは無効である、(ロ)のみならず、買収は令書の交付の日からその効果を生ずるものと解すべきであるから、本件の如く令書の交付前、したがつて買収の効果発生前の日を買収の時期と定めた買収処分は効力を生じない、(ハ)仮りに令書の交付により買収の効果が、買収計画に定めた買収の時期に遡つて生ずるものとすれば、控訴人の本件土地所有権は、事後の行為により十年前に遡つて剥奪されるもので、法の基本観念および憲法に反するから、本件令書の交付は無効である。(ニ)しかし以上の点は、仮りに買収の当然無効の事由とならないとしても、少くとも取消事由と認むべきである旨主張する。

しかし(イ)買収令書の交付が、買収計画および令書に記載した買収の時期より遅れてなされた場合でも、他に別段の事由があれば格別、単に右の一事により買収が違法になると解すべき法令上の根拠は存しない。(買収計画に対する異議、訴願、訴訟等のため、令書の交付が買収の時期より遅れたような場合、これを違法といい得ないことは控訴代理人も認めるとおりである。)しかして冒頭記載の如き本件買収手続の経過および本件訴訟の経緯によるも、本件令書の交付が遅れたことにつき、買収を違法ならしめる別段の事由があるものと認めるに足りないから、この点に関する控訴代理人の主張は採用できない。(ロ)令書に記載した買収の時期を経過した後に令書を交付したときは、右買収の時期には未だ買収の効果を生じ得ないこと、もちろんであるが、令書交付の際には、すでに買収の時期が到来しているのであるから、令書の交付と同時に、将来に対し買収の効果を生ずるものと解するを相当とする。控訴代理人は、かゝる場合、令書を交付しても全然買収の効果を生じ得ないというのであるが、右主張には賛同し難い。(ハ)買収の時期を経過した後に令書を交付した場合は、令書を交付した時から将来に対して買収の効果が生ずるものと解すべきであるから、右と異なる見地に立脚する控訴代理人の主張は前提を欠き、採ることを得ない。(ニ)以上(イ)ないし(ハ)の点に関し、控訴代理人の主張するところは、本件買収を違法ならしめる事由とは認め難く、したがつて、これをもつて本件買収の取消事由に当るという控訴代理人の主張も採ることを得ない。

(3)  以上のとおりであるから、本件第二回の買収中、二および三の土地に関する部分は違法といえないから、この部分については第二回の買収の無効確認ないし取消を求める控訴人の請求は理由がない。また一の土地に関する部分につき、第二回の買収の無効確認を求める請求は失当であるが、その取消を求める予備的請求は理由があるから、(前記(1)末段参照)これを認容すべきである。

(四)  登記の抹消手続および土地の明渡を求める請求に対する判断。

本件土地につき、農林省のために控訴代理人主張の各登記がなされ、次いで本件土地が被控訴人若林に売り渡され、被控訴人若林のため控訴代理人主張の各所有権取得登記がなされていることは、当事者間に争がなく、被控訴人森住が現に本件土地を占有耕作していることは、同被控訴人の認めるところである。

しかるに、上来説示のとおり、本件一の土地については、第一回の買収は無効、第二回の買収は当裁判所において取り消すべきものと判断するから、一の土地の所有権は本判決の確定により当然控訴人に帰属し、したがつて被控訴人国、同若林はそれぞれ控訴代理人主張の各登記の抹消手続をなすべき義務があり、また被控訴人森住は右土地を占有し得べき権原につき主張立証しないから、控訴人に対し、これを明け渡すべき義務があるものというべく、右各義務の履行を求める控訴人の請求は正当である。しかし、二および三の土地については第二回の買収が有効になされた結果、控訴人はその所有権を喪失し、かつ控訴代理人主張の各登記は実体上の権利は関係に合致するに至つたものと認められるから、二および三の土地につき登記の抹消手続および明渡を求める控訴人の請求は、失当たるを免れない。

(五)  結論

しからば控訴人の本訴請求は、主文第一項の(1)ないし(5)の限度においては正当として認容すべく、その余の請求は(二および三の土地に関する第一回の買収の無効確認を求める部分は確認の利益を欠くものとして、その他の請求はいずれも理由なきものとして)、認容できないものであるから棄却すべきである。よつて右と趣旨を異にする原判決は変更すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条条、第九十六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 田中盈 土井王明)

(別紙目録省略)

原審判決の主文、事実および理由

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

「一、神奈川県知事が昭和二十四年三月三十一日神奈川県公報号外を以て公告して別紙目録記載の土地につきなした買収処分は無効であることを確認する。

二、神奈川県知事が昭和三十二年三月二十三日附をもつて、昭和二十二年七月二日附神ろ第二、五五一号買収令書を昭和三十二年三月二十四日交付してなした別紙目録記載の土地に対する買収処分は無効であることを確認する。

三、被告国は原告に対し別紙目録記載の土地一及二に付横浜地方法務局上溝出張所昭和二十四年十二月二十六日受付第一、二二六号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第二七丁)同目録記載の土地三に付同出張所昭和二十五年五月八日受付第一五二四号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第一三三丁)により農林省のため所有権取得登記ありたるものと看做された登記の抹消登記手続をなせ。

四、被告若林藤作は原告に対し別紙目録記載の土地一及二については横浜地方法務局上溝出張所昭和二十五年二月十八日受付第一四八号、同三の土地については同出張所同年五月九日受付第一五四五号の昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法第十六条の規定による売渡による所有権取得登記の抹消登記手続をなせ。

五、被告森住万吉は原告に対し別紙目録記載の土地を明渡せ。

六、第二項の請求が容れられない場合における予備的請求として、被告神奈川県知事は昭和三十二年三月二十三日神ろ第二、五五一号買収令書を昭和三十二年三月二十四日交付してなした別紙目録記載の土地に対する買収処分を取消す。」

との判決を求め、請求原因として、

一、別紙目録記載三筆の土地は原告の所有であるところ神奈川県知事はこれに対し自作農創設特別措置法に基く農地買収処分として昭和二十二年七月二日付神ろ第二、五五一号買収令書の交付に代え昭和二十四年三月三十一日附神奈川県公報号外をもつてその公告をして買収し、次いで、別紙目録記載一、二の土地については横浜地方法務局上溝出張所昭和二十四年十二月二十六日受付第一、二二六号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第二七丁)により、同目録三の土地については同出張所昭和二十五年五月八日受付第一、五二四号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第一三三丁)によりいずれも農林省のために所有権取得登記ありたるものと看做される登記をなし、次いで同目録記載三冊の土地(以下本件土地と称する)を被告若林藤作に売渡し、一、二の土地については横浜地方法務局上溝出張所昭和二十五年二月十八日受付第一四八号を、同三については同出張所同年五月九日受付第一五四五号を以て同被告のため各昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法第十六条による売渡による所有権取得登記を了し、被告若林はその後本件土地を被告森住万吉に売渡し現に同被告がこれを占有耕作している。

二、ところで右買収処分は次の理由に依つて無効である。

(一) 買収令書の交付に代え公告をもつてなす処分は自作農創設特別措置法第九条第一項但書により所有者が知れないとき其他令書を交付することができないときに限り許されるものであつて、これに反してなされた公告による買収処分は無効というべきところ、原告は本件土地を取得した昭和十九年五月頃から昭和二十三年四月末頃までは東京都世田谷区深沢一ノ二八に、公告の行われた昭和二十四年三月頃は同区東玉川一五六に居住していて、この事実は本件土地を管轄して買収計画を樹立した新磯地区農地委員会には知れていたものであつて原告につき買収令書を交付することができない事由は存しなかつたのであるから前記公告による買収処分は当然に無効である。

(二) のみならず本件土地は買収当時農地でもなくまた小作地でもないのに、これを小作地であり、既墾農地として買収したものである。即ち、本件土地は、原告が昭和十九年五月頃前主より買受けた当時山林であつて其の地上には立木が生育していたので、買受の当時畑の登記であつたのを山林に地目変更をした(尤も四六三一番のみはこれを脱落したが実情は山林であつた)。其後昭和二十一年四月頃、原告が本件土地上の立木の一部を他に売却した際、その伐採後の根の処分を被告若林に依頼したところ、同人は何ら本件土地に対する耕作の許可を得ることなく不法に土地の一部の開墾に着手し原告の母においてこれを中止せしめたところである。然るに昭和二十二年二月末、新磯地区農地委員会は、本件土地全部を既墾農地とし、且つ被告若林の小作地として買収計画を樹立したもので、右買収計画には重大明白な右の瑕疵がありこれに基いた買収処分は当然に無効である。

よつて原告は国に対し右買収処分の無効確認並びに請求趣旨三記載の農林省のため所有権取得ありたるものと看做された登記の抹消を求める。

三、かくの如く右買収処分が無効であつて、国は所有権を取得するに由なく、従つて被告若林も前記売渡により所有権を取得せず、従つて、また、被告森住も被告若林から本件土地の所有権を取得するいわれなく、かつ原告に対抗すべき占有権原を持たない。よつて被告若林に対しては請求趣旨四記載の本件土地に対する所有権取得登記の抹消を求め、被告森住に対しては本件土地の明渡を求める。

四、被告神奈川県知事は昭和三十二年三月二十三日附をもつて同二十四日郵便により原告に対し昭和二十二年七月二日附神ろ第二、五五一号買収令書を交付して本件土地に対する買収処分をなしたが、この買収処分は次の理由により無効である。

(一) 農地買収は令書の交付によつて所有権移転の効果を生ずるから、買収の時期は令書の交付以後に定められるべきであつて、買収計画に対する異議、訴願、訴訟等のため令書の交付が買収時期の後となつた等特別の場合は格別かかる場合を除いては買収時期を著しく徒過し、買収計画を樹立した意味を失つた後において買収令書の交付をしても買収の効果を生じないものというべく買収の時期を昭和二十二年七月二日とする本件買収計画にもとずく買収令書を約十年を経過した昭和三十二年三月二十四日交付してなす買収処分は当然無効である。

(二) 仮りに農地法施行法第二条第一項の規定により未完成の買収を追行し得るとしても、買収の効果は令書の交付日以後において生ずべきである。従つて買収時期を昭和二十二年七月二日とする買収処分としての効力を生じ得ない。

(三) 仮りに買収令書の交付により十年前に遡及し買収の効果を生ずるとすれば、事後の行為により十年前に遡つて所有権を剥奪するもので、法の基本観念に反し憲法に違反する。よつて買収計画に定めた日を買収の時期とする前記令書の交付による買収処分は当然に無効と解すべきである。

(四) 仮りに然らずとするも、前述の如く本件土地は昭和二十二年五月二十三日買収計画樹立の当時においては一部が開墾せられていただけで山林であり農地ではなく、しかも右開墾は被告若林の不法開墾であつて小作関係はなかつた。かかる事態を無視して樹立された買収計画は重大明白な瑕疵がありこれに基く本件買収処分は無効である。

よつて原告は被告国に対し右令書の交付による買収処分の無効確認を求めるが、仮りに無効でないとしても右瑕疵は取消の理由に該るからこれが取消を求める。

五、仮りに右令書の交付に依る買収処分が有効としても、請求趣旨三、四の登記はいずれも前記公告による買収処分を登記原因とするものであるから、これを現在の権利関係に合致するものとしてその効力を認めることはできず、また右令書の交付による買収処分が取消されるとすれば、買収は効力を失い国に本件土地所有権は移転せず、これを前提とする売渡も当然無効となり被告若林は所有権を取得するに由なく以上いずれの場合においても前記各登記は抹消せらるべきであり、被告森住も売買により所有権を取得せず原告に対しては占有の権限がないに帰する。

と述べた。(証拠省略)

被告等訴訟代理人はいずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

被告国及神奈川県知事訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として

一、別紙目録記載三筆の土地がもと原告の所有であつたこと、神奈川県知事が本件土地を原告主張のとおり昭和二十四年三月三十一日附神奈川県公報号外に買収令書の交付に代る公告をして買収し、次いで、原告主張の各農林省のために所有権取得登記ありたるものと看做される登記をなした後これを被告若林藤作に売渡し、同人のため各原告主張の所有権取得登記がなされたこと、右買収処分は本件土地を小作地として買収したものであること、及び本件土地につき神奈川県知事は昭和三十二年三月二十四日原告に郵便をもつて原告主張の買収令書を交付して買収処分をなしたことはいずれも認める。被告若林が本件土地を被告森住に売渡し、現に同人が占有耕作しているとの事実は不知。その他は否認する。

二、本件買収処分は買収令書の交付に代わる公告によるものとしても、またその後における買収令書の交付によるものとしてもいずれにしても有効である。

(一) 本件土地はもと原告が所有し、被告若林藤作が借り受け小作していた小作地であり原告は本件土地所有地に居住していなかつたので神奈川県相模原町新磯地区農地委員会は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号の規定に基き、所謂不在地主の小作地として昭和二十二年五月二十三日買収の時期を昭和二十二年七月二日とする買収計画を樹立し、右買収計画を同年六月十日公告し同月十九日迄縦覧に供した。ところがその後同年十月十日に至つて原告から同委員会に対し口頭で不服申立があつたが期間徒過のため同委員会はこれを排斥したところ、原告はさらにこれを不服として同年十一月十七日県農地委員会に訴願を提起し、同委員会は昭和二十三年十二月十五日右訴願につき却下決定をなし翌昭和二十四年二月十九日原告宛の右裁決書を新磯地区農地委員会に送付して原告に交付するよう依頼した。当時原告は登記簿上の住所である東京都世田谷区深沢一丁目二十八番地に居住せず同委員会には原告の住所が不明であつて右裁決書を原告に交付することができなかつた。したがつて神奈川県知事は昭和二十四年三月三十一日住所不明のため原告に対し買収令書を交付することができないとして本付令書の交付に代る公告による買収処分をなしたのである。

(二) 昭和三十二年三月二十四日原告に買収令書を交付してなした買収処分は右公告による買収処分が有効であるかぎり必要のない措置であるけれども若し右公告による買収処分が無効なときは本件土地については前記買収計画の公告があつたまま未完成の状態となる訳となるので、農地法施行法第二条第一項第一号の規定に基きなしたものである。原告は本付の場合同法の右法条の規定を適用できないと主張するがこれを争う。即ち右規定の趣旨は農地法施行の日たる昭和二十七年十月二十一日当時買収の効力の生じていないすべての農地についてその理由の如何を問わず自作農創設特別措置法第六条第五項の買収計画樹立の公告の時期を標準として当時すでに公告がなされているものについては従前どおり同法の規定に則つて爾後の手続を進行しうるものとしたもので、少くとも政府において買収の意思を表示した農地即ち買収計画を樹立公告をした農地は理由の如何を問わず同じ取扱をすべきものである。

三、本件土地が買収計画樹立の当時未墾地であつたとの事実は争うが仮りにそうであつたとしても、その未墾の部分は極く一部であり、大半は農地であつたからこれを農地として買収計画を樹立しても違法ではないのみならず買収処分当時は全部農地となつていたからその瑕疵は治癒されて計画、処分の無効を来すいわれはない。

四、仮りに右第一次の処分(公告による買収処分)が無効としても、右第二次の処分(令書の交付による買収処分)が有効である限り原告は右買収令書の交付により買収の時期である昭和二十二年七月二日に遡つて本土件地の所有権を失い、国がこれを取得したのである。そして請求趣旨記載の各登記は実体関係を如実に反映するものであり、少くとも現在の権利関係を示しているものであるから、この場合においても右各登記の抹消を求める原告の請求は理由がない。

と述べ、

被告若林、森住両名訴訟代理人の請求の原因に対する答弁は、本件土地を被告森住が現に占有耕作している事実は認めるが、被告若林が本件土地を被告森住に売渡したとの事実は否認する。被告若林は本件土地を耕作を目的として原告より賃借し、適法に占有耕作していたものであると述べた他、被告国及び神奈川県知事訴訟代理人の主張と同一である。

(証拠省略)

理由

別紙目録記載三筆の土地がもと原告の所有であつたところ神奈川県知事はこれに対し自作農創設特別措置法に基く農地買収処分として昭和二十二年七月二日附神ろ第二五五一号買収令書の交付に代え昭和二十四年三月三十一日附神奈川県公報号外に買収時期を昭和二十二年七月二日とする公告をして買収し、次いで別紙目録記載一、二の土地については横浜地方法務局上溝出張所昭和二十四年十二月二十六日受付第一、二二六号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第二七丁)により同目録三の土地については同出張所昭和二十五年五月八日受付第一、五二四号登記嘱託書(買収登記嘱託書綴込帳第一冊第一三三丁)によりいずれも農林省のために所有権取得登記あつたものと看做される登記をなし、次いで同目録記載三筆の土地を被告若林藤作に売渡通知書を交付して売渡し、一、二の土地については横浜地方法務局上溝出張所昭和二十五年二月十八日受付第一四八号を、同三については同出張所同年五月九日受付第一五四五号を以て同被告のため各昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法第十六条に依る売渡による所有権取得登記を了したことは当事者間に争がない。

原告は買収令書の交付に代えて公告をもつてした買収処分は無効であると主張するので先ずこの点を判断する。成立に争のない甲第一乃至三号証と証人岩井喜久(第一回)の証言によれば原告の登記簿上の住所が東京都世田谷区深沢一丁目二十八番地であつたところ、原告は昭和二十三年九月頃まで同所に居住し、其後移転して本件公告の行われた昭和二十四年三月三十一日当時は同区東玉川町百五十六番地に居住していたことが認められる。そして証人大塚光治の証言と成立に争のない乙第一号証、甲第七号証の二、表面訂正部分については同証人の証言により成立を認め、その他の部分については成立に争のない乙第一号証の一によれば、本件土地を管轄し買収処分の実施に当つていた新磯地区農地委員会においては、原告から昭和二十二年十一月十七日附で同委員会に提出された神奈川県農地委員会宛訴願申立書(乙第一号証)に原告が自らその移転先と記載する神奈川県高座郡相模原町新戸字向出口四六三〇番地には調査の結果、原告が居住しないことが判明していたこと、右地区農地委員会が昭和二十四年二月二十一日原告に対し県農地委員会の訴願却下の裁決書(甲第七号証の二)を前記登記簿上の住所に宛てて発送したが居所不明で返送されたことを推認することができる。尤も前記甲第七号証の一によれば昭和二十四年二月二十一日附地区農地委員会から原告宛封書(甲第七号証の二)の表書に一旦記載された前記登記簿上の住所を抹消して「東玉川町一五六」と前認定の当時の原告住所が記載されていることが認められるけれども、証人大塚光治の証言と右甲第七号証の一の記載の体裁からみれば、右訂正は二月二十一日発信時に訂正されたものではなく、居所不明で返送された後に訂正したものであることが推認できるから前認定を妨げるものではなく、また甲第十号証の一、二をもつても右認定を覆えすに足りない。この様に原告が前記地区農地委員会に提出した書面に移転先と記載する場所に居住せず、これがために地区農地委員会が原告の登記簿上の住所に宛てて発送した書面が居所不明で返送された場合は、自作農創設特別措置法に基く農地買収が特に短期間にその処理を完了することが要請されていたことは当裁判所に顕著であり、かかる事情の下においては、原告の住所が知り得ないため同法第九条第一項但書にいう令書の交付をすることができない場合に当るものとして妨げないものと解するを相当とする。従つて買収令書の交付に代えて公告をもつてした買収処分の当然無効の主張を前提とする原告の請求はすべて理由がない。

次に原告は本件買収処分は農地でもなく小作地でもない土地を対象とした違法があると主張するのでこの点を判断する。まず被告若林が本件土地の一部の開墾耕件に著手していたことは原告の自認するところであるが、原告は右被告若林の開墾耕作は原告の承諾を得ない不法のものであると主張する。証人岩井喜久(第一、二回)の証言の一部、同若林はまの証言、被告本人若林藤作の尋問の結果と成立に争のない丙第一号証の一、二を綜合すれば、本件土地は原告の母岩井喜久が原告の代理人として管理していたところであり、昭和二十年八月頃、本件土地上の立木を処分するに際し、右岩井喜久は被告若林が本件土地の近くに居住していたことから同人にその伐採の人夫の斡旋、伐採後の根の処分等を依頼した際、被告若林の要望に応じ、同被告が根を掘り起した後本件土地を開墾し耕作することを承諾、二年間位は無料、その後の小作料は改めて協議することとし、これに基いて同被告が本件土地を開墾耕作したものであることが認定でき、証人岩井喜久の右証言中これに反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。されば本件土地につき前記地区農地委員会が被告若林の小作農地として買収計画を樹立したことを何ら違法とすべき理由はない。

次に本件土地全部が買収計画樹立の当時農地であつたかどうかについて判断するに、証人石川明(第二回)の証言とこれにより真正に成立したと認める甲第八号証と証人大塚光治、同石川豊二、同若林はまの各証言並びに被告本人若林藤作の尋問の結果を綜合すれば、本件土地の開墾、耕作の進展の状況については、甲第八号証記載のとおり昭和二十二年五月本件土地に対する買収計画樹立当時においては本件土地全部約三反のうち二反近くが耕作され、残り一反は同年八月頃耕作を完了したことが認められ、証人石川明(第三回)、同大久保新助の証言中右認定に反する部分はいずれもにわかに措信し難く、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。そして証人石川明(第三回)並に同石川豊二、同大塚光治の各証言を綜合すれば前記地区農地委員会において買収の期日である同年七月二日頃までには全部開墾される見込のもとに本件土地を全部農地として買収計画を樹立したことが認められ、買収計画樹立の当時本件全部が農地ではなかつたが、前記認定の部分が農地であり、かかる場合前記のような見込のもとに未墾の部分をも含めて全部を農地として樹立された買収計画が違法ではあるとしても重大明白な瑕疵があるものとして右買収計画を当然無効ならしめるものと認めることはできない。

以上いずれの点においても右の買収計画に基く買収処分を当然無効とする原告の主張は理由がなく、右主張を前提とする無効確認及び登記抹消の各請求、並びに被告森住に対する土地明渡の請求はいずれも爾余の点を判断する迄もなく失当として排斥を免れない。

次に神奈川県知事が昭和三十二年三月二十三日附神ろ第二、五五一号買収令書を昭和三十二年三月二十四日原告に交付してなした買収処分の無効確認並びに被告神奈川県知事の該処分の取消を求める予備的請求につき判断するに、前記公告による買収処分を当然無効とする主張が理由なきこと前記認定のとおりであるから、原告は前記公告に買収の時期と定められた昭和二十二年七月二日本件土地に対する所有権を失つたものというべく、従つてその後本件土地に対しなされた買収処分の無効確認乃至は取消を求めるにつき原告は訴の利益を欠くものであるから、爾余の点を判断するまでもなく、右各請求も棄却を免れない。

よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。(昭和三三年一〇月一〇日横浜地方裁判所判決)

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